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相続コラム

相続放棄

空き家の相続放棄で注意すべき保存義務とは?どこよりも詳しく解説!

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「親が他界して空き家になった実家を相続した」などのケースは、比較的よく耳にします。
この際、不要な空き家を引き継がない方法の1つは相続放棄ですが、放棄をしてもその家を保存する義務から逃れられない可能性があります。
また、他の相続財産の内容などによっては相続放棄が良いとは限らず、他の方法も踏まえて検討しなければなりません。

この記事では、不要な空き家を相続した場合の対策をまとめました。相続放棄をしても無視できない「保存義務」や、新たに設けられた「相続土地国庫帰属制度」についても法令に即して詳しく解説します。
不要な空き家の相続に不安を抱えている方は、ぜひ最後までお読みください。

目次

空き家の相続放棄は可能

結論から言うと、不要な空き家の相続を放棄すること自体は可能です。相続放棄は、家庭裁判所に対して申述書を提出し、受理されると成立します。

空き家のみの相続放棄はできない

相続放棄によって空き家を相続しないことは可能ですが、相続放棄は、すべての財産を一切放棄する手続きであることにお気をつけください。
つまり、特定の財産だけを指定して放棄することはできません。空き家を相続したくない一方で、預金や株式などの資産は受け取りたいと考えたとしても、相続放棄をすればすべての財産を受け取れなくなってしまいます。
このため相続放棄を検討する際には、放棄によって不利益が生じないよう、すべての相続財産をきちんと把握した上で判断することが大切です。

空き家を相続放棄するとどうなるのか?

あなたが相続放棄をした場合、「はじめから相続人ではなかった」ものとして扱われます。また、あなた以外に相続人がいるのであれば、あなたが放棄した相続分は、ほかの相続人に割り振られます。同順位の相続人がいない場合には、次順位の方が相続人となる仕組みです。
空き家の相続放棄も同様で、土地(空き家)の相続放棄をおこなうと、空き家の保存義務(管理義務)は次順位の相続人に移ります。
この際、他の相続人が財産を相続する、もしくは相続放棄をするまで、あなたは空き家の保存義務を負う可能性があります。
相続放棄時点で相続財産を実際に占有していると、相続人が決まる、もしくは相続財産管理人が選出されるまで空き家の保存義務があると定められているからです(2023年4月の法改正により、条件が変わりました)。「相続財産を実際に占有している」とは、被相続人が亡くなる以前から、日常的に空き家の掃除など管理をおこなっていた場合が当てはまります。
一方で、相続放棄をした空き家にまったく関わってこなかった場合には、保存義務が発生しません。
相続人全員が相続放棄をした場合には、第三順位の相続人が相続財産管理人の選任まで空き家の保存義務を負う可能性があります。

【参考】財産管理制度の見直し(相続の放棄をした者の義務) |法務省

相続人全員が放棄した場合は相続財産は法人化する

仮に相続人全員が相続放棄をしたとすると、相続人が誰もいない状態となってしまいます。この状態は「相続人不存在」と呼ばれ、相続財産は法人化されます(相続財産法人と言います)。そして、相続財産は最終的に国庫に帰属するとされています。つまり、国の財産となるのです。
しかし、相続人がいないからといって、ただちに国の所有物となるわけではありません。
被相続人が遺した財産は、空き家だけでなく、現預金や株式などもあれば、借金などの負債を抱えているケースもあり得ます。
そのため、全員が相続放棄をした場合は、相続財産精算人の選任が行われ、相続財産精算人によって債権者への返済が行われたり、被相続人と特別な縁があった方(特別縁故者)に財産を分配されたりします。

保存義務があるのに管理を怠るとどうなるか

保存義務は、「自分のものであるのと同等の扱いをする」と考えれば分かりやすいでしょう。
故意に乱暴な扱いをして損傷させたり、破損個所を放置したことが原因で第三者に被害を与えたりした場合には、相応の責任を負うことになりますのでご注意ください。

1.損害賠償請求を受ける可能性

保存義務を負う立場の人が適切な管理を行わずに第三者に損害が発生した場合、損害賠償請求を受ける可能性が生じます。
空き家の相続放棄で考えると、「劣化や老朽化などによって家の価値が低下した」「火災など空き家が原因で他人に与えた損害」の2つが考えられるでしょう。
前者に関しては、仮に被相続人が借金をしていたら、空き家が返済の原資になりますが、空き家の価値が下がることで、返済できる金額が減る可能性があります。空き家を受け取る予定だった人がいる場合、空き家の資産価値が下がることで、受け取る人に損害が発生することもあるでしょう。
このようなケースで、利害関係者からの損害賠償請求を受けるリスクが生じるのです。
後者の場合だと、火災だけでなく、適切に管理されていなかった空き家が劣化し、落下した瓦で第三者にけがを負わせてしまうなど、老朽化が原因で人をケガさせてしまうこともあり得ます。
この場合も同様に、適切に保存しなければならない立場として損害賠償請求されるリスクがあります。

2.悪用されてしまう可能性

空き家を悪用されてしまう可能性にも注意が必要です。日常から人が立ち入ることがない空き家であることを犯罪者が認識してしまえば、犯罪の拠点として利用されたり、実際にそこに立ち入らずとも住所などを詐欺などに悪用されたりするリスクが生じます。
例えば振り込め詐欺グループが、あたかも実在する会社であるかのように示すために、何の権利も持たないその空き家を無断で事務所所在地としてHPなどに掲載する可能性も否めません。
相続放棄をした本人は全く知らない事実であっても、警察から関与を疑われるなどの恐れが生じるのです。

3.特定空き家に指定される可能性

特定空き家とは、「倒壊などの危険がある」「周囲の衛生や景観を損なっている」などの理由から、そのまま放置することが不適切であるとして自治体が指定する空き家を指します。
2015年に施行された空家等対策の推進に関する特別措置法に定められた仕組みで、保存義務のある空き家を放置していると、これに指定される恐れがあるのです。
特定空き家に指定された場合、自治体から適切な管理に関する助言や指導を受ける可能性があります。さらに改善されない場合には、勧告・命令・代執行の措置がとられるとされており、勧告を受けると土地の固定資産税額が最大6倍となるなど経済的な不利益も生じます。

相続放棄サポートの詳細はこちらをご覧ください。

【参考】住宅:空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報|国土交通省

空き家の保存義務から逃れる方法

相続放棄をしても空き家の保存義務が続くのは、法定相続人にとって負担です。
ただし、ずっと保存義務が続くわけではありません。
以下のタイミングで空き家の保存義務はなくなります。

1.他の相続人が相続する

保存義務から解放されるケースの1つが、他の相続人が相続した場合です。
被相続人の子どもが空き家を相続放棄した場合、その家の相続権は他の相続人に移ります。
この際、子どもは空き家の保存義務を負う可能性がありますが、他の相続人が相続を承認して空き家の所有者となれば、その時点で相続放棄をした子どもには保存義務がなくなります。
ただし、相続をした人ではなく、相続放棄をした子どもがその後空き家を使用する場合には、その後も子どもが管理責任を負うこともありますのでご注意ください(工作物責任)。

2.相続財産清算人の申立てを行う

自分が相続放棄をすると、他に相続人となるべき立場の人がいない場合、もしくは全員が相続放棄をした場合など、空き家を相続する人がいなければ、相続財産清算人を選出します。
この場合、空き家の保存義務は、家庭裁判所に対して相続財産清算人の選任を申し立て、相続財産清算人に空き家を引き渡してはじめてなくなります。

空き家の相続放棄に係る費用相場

相続放棄の申述は相続人本人が単独で申請できますが、専門的な知識が必要とされることも事実です。
相続財産を正確に調査すること、後述する法定単純承認に該当するリスクを排除することなど、いくつかの重要なポイントを押さえておかなければならないからです。
手続きに不安がある場合には、専門家への相談も検討してみましょう。
相続放棄を依頼できる専門家は司法書士と弁護士です。

司法書士や弁護士に相続放棄を依頼する場合、自分で相続放棄手続きをする場合の費用の目安は以下の通りです。

相続放棄の費用相場
司法書士に依頼する場合 1万円~5万円
弁護士に依頼する場合 5万円~10万円
自分で手続きする場合 3,000円~5,000円

空き家の解体を行う場合の費用

利用の予定がない空き家であっても、土地としての価値は低くないケースもあるでしょう。そのような場合には相続放棄を選択せず、相続を承認した上で空き家を解体するのも選択肢の1つです。
しかしながら、空き家の解体には要する費用を考慮することを忘れてはなりません。解体費用は数十万円から数百万円かかることが考えられるでしょう。
「周辺の道路が狭あいで重機の搬入ができない」など、さまざまな事情によって費用が高額になる可能性もあります。
住宅の構造別の解体費の目安は次の通りです。

建物構造 1坪当たりの解体費用
木造住宅 3万円~5万円程度
鉄骨造住宅 4万円~6万円程度
RC造住宅 6万円~8万円程度

これはあくまでも一般的な費用相場で、建物の立地条件などによって大きな差異が生じます。前述した道路状況の他、道路と宅地の高低差なども価格に影響を及ぼします。
仮に重機を使わずに手作業で解体する場合、相場の1.5〜2倍程度の費用が掛かるケースも珍しくはありません。

空き家の相続放棄をする際の注意点

相続は、何もしなければ民法で定められた相続順位に従って、該当する相続人が資産も負債もすべてを引き継ぐのが原則とされています。この原則的な手続きが単純承認です。
つまり相続放棄は原則から外れる手続きといえます。不要な空き家の相続を回避するために相続放棄を選択するのであれば、手続きのルールや注意点も知っておかなければなりません。

1.相続開始を知ってから3ヶ月以内に申述する

相続放棄を希望する場合には、家庭裁判所に対して相続放棄申述書を提出します。相続が開始したことを知ってから3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出し、それが受理されることによって認められる仕組みです。
この3ヶ月は熟慮期間と呼ばれ、相続財産を精査して、相続を承認するか放棄するか、もしくは資産の範囲で負債も引き継ぐ「限定承認」を選択をするかの判断にあてる時間です。この期日を過ぎれば単純承認を選択したとみなされ、放棄が認められなくなります。
そのため、空き家の相続放棄を考えているなら、相続放棄の手続きは早めに行うことが大事です。
何かしらの事情があって3ヶ月以内に相続放棄できなかったケースでは、上申書の提出によって3ヶ月が過ぎた以降でも相続放棄できる可能性があります。

2.財産を勝手に処分しない

相続人が相続財産の処分などを勝手にすると、相続をしたものと判断されてしまいますのでご注意ください。
相続財産に空き家が含まれる場合には、その空き家を解体してしまった場合などが処分にあたります。
空き家には手をつけていなかったとしても、被相続人の貯金を引き出して使用したら、空き家を含めて相続したことになってしまう可能性があります。
このようなことがあると、相続放棄が受理されませんので、相続財産には手を付けないのが原則です。

3.事前に別の相続人に相続放棄をする旨を伝えておく

相続放棄は単独で行える手続きですが、相続放棄をすると他の共同相続人や次順位の法定相続人に影響を及ぼします。このため相続放棄をする場合には、他の親族などに相続放棄をする旨を伝えておくことが大切です。

何も知らせずに相続放棄をしてしまうと、次順位の相続人は「自分の知らないうちに相続人になっていた」という状況に陥りかねません。相続は権利だけでなく義務も引き継ぐ制度ですから、トラブルに発展する可能性も生じます。

相続放棄サポートの詳細はこちらをご覧ください。

不要な空き家を相続してしまった場合の対処法

ご自身が必要としていない空き家は、マイナスの相続財産となる可能性が否めません。不動産は一般的にはプラスの財産と考えられますが、固定資産税などの税負担や維持管理に要する費用を考慮すると、不利益の方が多くなるケースもあるからです。
不要な空き家を相続してしまった場合の対処法についても押さえておきましょう。

1.ビジネスに活用する

相続人自身が利用する予定のない空き家であっても、賃貸などで活用できるかもしれません。収益が上がるか否かは立地などに左右される側面がありますが、1つの選択肢として考えてみるとよいでしょう。

まず考えられるのは、空き家をリフォームして、賃貸物件として活用したり、民泊などに利用したりする方法です。建物を解体した上で、駐車場として賃貸する方法も考えられます。
いずれの方法も先行投資が必要となりますが、想定される需要や賃料などからプラスの収支が見込めるのであれば、試してみる価値のある方法です。
相続した空き家の処分に困るケースでは、「接道要件を満たさず建て替えができない」などの要因がある物件が少なくありません。一方で、仮に売却が難しくても、賃貸であれば活用できるという可能性も十分に考えられます。

2.自治体へ寄付する

できるだけ費用を掛けずに手放したいのであれば、自治体への寄付を相談してみましょう。その空き家が自治体が必要としている施設として利用可能である場合などに限られますが、寄付は受けてくれるかもしれません。
しかし、いきなり「寄付をしたい」といって受け付けてもらえるものではありません。まずは登記事項証明書や公図・測量図、現況が分かる写真などを用意して、担当の窓口で相談してみることが必要です。
自治体が空き家を調査し、利用価値があると判断されてはじめて、寄付できる可能性が生まれます。

3.相続土地国庫帰属制度を利用する

2023年4月に施行された「相続土地国庫帰属制度」を活用すれば、相続した不要な土地を手放して国に譲り渡すことが可能です。ただし、この制度が利用できるのはあくまでも土地ですから、空き家を解体して更地にしなければなりません。
また、相続土地国庫帰属制度を利用できるのは、相続や遺贈によって取得した土地のみです。さらに、相続登記が完了していることを含め、さまざまな要件を満たす必要があります。例えば建物が残ったままの土地や、境界が確定していない土地などは利用できません。
この制度を申請する際は、土地1筆当たり20万円の審査手数料が必要で、申請が承認された場合には、10年分の土地管理費用相当額の負担金を納めなければなりません。
負担金の金額は地目や面積に応じて定められており、仮に市街化区域の土地100㎡を国庫に帰属させるのであれば54万8000円が必要です。さらには相続登記費用や解体費、手数料なども要するため、お金がかかってでも空き家を処分したい場合の選択肢と言えるでしょう。

【参考】相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件|法務省
【参考】相続土地国庫帰属制度の負担金|法務省

4.売却する

売却も積極的に検討すべき選択肢の1つです。「家が古すぎる」「立地が悪い」などの理由で初めから売却を諦める方も少なくないですが、思わぬ需要で成約に至る可能性も考えられます。まずは仲介業者に査定を依頼し、売却が可能か否かを確認してみましょう。
ただし、なかなか買い手がつかない不動産が少なからず存在するのも事実です。売却に際して境界確定が必要になるなど、収支のマイナスが生じる可能性も否めません。
査定に際しては、どのような条件での売却を想定したものかを確認することが大切です。
また、相続した空き家を売却した場合、一定の要件を満たすと譲渡所得から最高3000万円が控除される特例の適用が受けられます。相続した不動産の場合、購入に要した費用が明確に分からないことなどで譲渡所得税が高額になりがちです。この特例を活用できれば、税負担の抑制にもつながります。

【参考】被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁

まとめ

「亡くなった方が住んでいた家」は、よくある相続財産の1つです。不動産は高額なものが多いため、相続財産の価値の大部分を空き家が占めるケースも決して珍しくはありません。
しかし、不動産を所有するとさまざまな義務が付きまといます。固定資産税などの納税義務だけではなく、適切な維持に掛かる費用や労力を考慮すれば、必ずしもそれがプラスの財産とはいえないケースもあるでしょう。
不要な空き家をはじめとして、相続財産を受け取らない手段としてよく知られているのは相続放棄ですが、相続放棄しただけでは空き家の保存義務から逃れられるとは限りません。保存義務が生じる要件や、その場合に取るべき手段をしっかりと把握して、他の選択肢も含めて慎重に検討することが必要です。
被相続人が亡くなり、空き家の相続に迷っている方は、一度専門家に相談するのもおすすめです。相続放棄を検討されている方は相談無料の司法書士法人みつ葉グループまでお気軽にお問い合わせください。

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