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個人再生における「最低弁済額」とは?
個人再生は、裁判所を通して借金を大幅に減額してもらう手続きです。
手続きを経て減額された借金、つまり、お金を借りた人(債務者)が実際に返済することになる金額を「最低弁済額」と呼びます。
最低弁済額を決める基準には、
- 最低弁済基準額
- 清算価値保障基準
- 可処分所得基準
があり、どれが適用されるかは手続きの種類次第となります。
個人再生の手続きについては、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
「個人再生手続きとは?条件から手続きの流れ、期間・費用まで解説」
1 法律が定めた最低限支払うべき「最低弁済基準額」
「最低弁済基準額」は、民事再生法(231条2項3号4号)で定められた最低弁済額の基準です。
民事再生法 第231条
小規模個人再生において再生計画案が可決された場合には、裁判所は、第百七十四条第二項(当該再生計画案が住宅資金特別条項を定めたものであるときは、第二百二条第二項)又は次項の場合を除き、再生計画認可の決定をする。
二 小規模個人再生においては、裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合にも、再生計画不認可の決定をする。
三 前号に規定する無異議債権の額及び評価済債権の額の総額が三千万円を超え五千万円以下の場合においては、当該無異議債権及び評価済債権(別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権及び第八十四条第二項各号に掲げる請求権を除く。以下「基準債権」という。)に対する再生計画に基づく弁済の総額(以下「計画弁済総額」という。)が当該無異議債権の額及び評価済債権の額の総額の十分の一を下回っているとき。
四 第二号に規定する無異議債権の額及び評価済債権の額の総額が三千万円以下の場合においては、計画弁済総額が基準債権の総額の五分の一又は百万円のいずれか多い額(基準債権の総額が百万円を下回っているときは基準債権の総額、基準債権の総額の五分の一が三百万円を超えるときは三百万円)を下回っているとき。
最低弁済基準額は、住宅ローンの残債を除外した借金の総額(基準債権総額)から計算することができます。
最低弁済基準額 | |
---|---|
借金総額 | 最低弁済額 |
100万円未満 | 全額 |
100万円~500万円未満 | 100万円 |
500万円~1500万円未満 | 借金総額の5分の1 |
1500万円~3000万円未満 | 300万円 |
3000万円~5000万円未満 | 借金総額の10分の1 |
例えば借金の総額が300万円だった場合、表中の「100万円~500万円未満」に該当するため最低弁済基準額は100万円です。
ただし、一定額以上の価値のある財産を所有している場合は、後述する「清算価値保証基準」が適用されます。
2 家や車など財産が多い人は「清算価値保障基準」
個人再生のうち「小規模個人再生」の手続きをする際、債務者が住宅や車など多くの財産を所持している場合は「清算価値保障基準」が適用されることがあります。
「清算価値」とは一定額以上の価値がある財産を、すべて現金化した場合の金額のことです。
清算価値が最低弁済基準額を上回っていると、清算価値が最低弁済額となります。
清算価値として計上される財産例(※)
- 99万円を超える現金(100万円の場合は1万円)
- 20万円を超える預貯金(預貯金30万円の場合は10万円)
- 見込額が20万円を超える生命保険解約返戻金(見込み額30万円の場合は10万円)
- 見込額が160万円を超える退職金の1/8
- 自動車(処分見込額が20万円を超えるものの全額分。)※仕事などで必要な場合を除く
- 非常に高価な家財道具(生活に不可欠なものを除く)
- 不動産(評価額からローン残高を控除した金額)
(※裁判所により異なる)
個人再生では、自己破産のように一定額以上の価値がある財産が処分されることはありません。
しかし、裁判所に提出する「再生計画案」で定める返済額は、債務者が自己破産の手続きをしたと仮定した場合にお金を貸した人(債権者)へ支払う金額よりも高くなければいけないというルール(=清算価値保障原則)があります。
民事再生法174条第2項により、「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき」は再生計画が不認可になると定められているためです。
つまり、一定額以上の価値ある財産を所持している場合、財産分の金額は最低限として債権者に支払わなければならないのです。
民事再生法 第174条
再生計画案が可決された場合には、裁判所は、次項の場合を除き、再生計画認可の決定をする。
2 裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。
一 再生手続又は再生計画が法律の規定に違反し、かつ、その不備を補正することができないものであるとき。ただし、再生手続が法律の規定に違反する場合において、当該違反の程度が軽微であるときは、この限りでない。
二 再生計画が遂行される見込みがないとき。
三 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき。
四 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。
清算価値保障基準から最低弁済額が決まるケース
例えば借金総額が300万円で、50万円の預貯金と処分見込額80万円の自動車を持っている場合、清算価値は110万円(預貯金30万円+自動車80万円)となります。
一方、借金総額300万円に対する最低弁済基準額は100万円です。
この場合は清算価値が最低弁済基準額を上回っているので、債務者が支払う最低弁済額は清算価値保障基準から110万円となります。
清算価値保障基準が最低弁済額の基準となるケース
【借金総額】 300万円
【清算価値】 110万円
・預貯金…50万円
・自動車…処分見込額80万円
【最低弁済基準額】 100万円
清算価値:110万円>最低弁済基準額:100万円となるため、債務者は少なくとも110万円を返済する必要がある。
住宅がある場合は最低弁済額が上がり、借金の減額効果を得られないことも
もうひとつ注意したいのが、住宅を所有している場合です。
残債が少ない住宅ローンがある場合、住宅の清算価値(時価)の方が高くなれば、差額は財産扱いとなります。
例えば、住宅ローンの残額が600万円で、住宅の時価評価額が1200万円であった場合は、600万円の財産を持っていることになります。
住宅ローンを除く借金総額が600万円だった場合、最低弁済基準額は120万円となりますが、債務者は少なくとも財産分の600万円を支払わなくてはならず、結果的に借金を減らすことができなくなるのです。
住宅の清算価値により借金が減額できないケース
【住宅ローンの残額】 600万円
【住宅の清算価値(時価)】1200万円
→他の財産がない場合、清算価値は600万円となる(1200-600)。
【住宅ローンを除く借金総額】 600万円
【最低弁済基準額】 120万円
→清算価値:600万円>最低弁済基準額120万円となるため、債務者は少なくとも600万円を返済しなくてはならず、借金を減額できない。
このように、清算価値が高額な場合は、最低弁済額が上がったり、借金の減額効果がなくなったりすることがあるので注意しましょう。
ローンを完済した住宅がある場合も同様です。
個人再生と住宅ローンの関係については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
「個人再生なら家は残せる?住宅ローン特則の仕組み」
給与所得者等再生の人は「可処分所得基準」
個人再生のうち「給与所得者等再生」の手続きをする場合は、上記の基準に「可処分所得基準」が加わります。
「最低弁済額基準」「清算価値保障基準」「可処分所得基準」のうち、もっとも高額なものが最低弁済額になるのです(民事再生法241条2項7号)。
民事再生法 第241条
2 裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。
七 計画弁済総額が、次のイからハまでに掲げる区分に応じ、それぞれイからハまでに定める額から再生債務者及びその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な一年分の費用の額を控除した額に二を乗じた額以上の額であると認めることができないとき。
イ 再生債務者の給与又はこれに類する定期的な収入の額について、再生計画案の提出前二年間の途中で再就職その他の年収について五分の一以上の変動を生ずべき事由が生じた場合 当該事由が生じた時から再生計画案を提出した時までの間の収入の合計額からこれに対する所得税、個人の道府県民税又は都民税及び個人の市町村民税又は特別区民税並びに所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第七十四条第二項に規定する社会保険料(ロ及びハにおいて「所得税等」という。)に相当する額を控除した額を一年間当たりの額に換算した額
ロ 再生債務者が再生計画案の提出前二年間の途中で、給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者でその額の変動の幅が小さいと見込まれるものに該当することとなった場合(イに掲げる区分に該当する場合を除く。) 給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者でその額の変動の幅が小さいと見込まれるものに該当することとなった時から再生計画案を提出した時までの間の収入の合計額からこれに対する所得税等に相当する額を控除した額を一年間当たりの額に換算した額
ハ イ及びロに掲げる区分に該当する場合以外の場合 再生計画案の提出前二年間の再生債務者の収入の合計額からこれに対する所得税等に相当する額を控除した額を二で除した額
3 前項第七号に規定する一年分の費用の額は、再生債務者及びその扶養を受けるべき者の年齢及び居住地域、当該扶養を受けるべき者の数、物価の状況その他一切の事情を勘案して政令で定める。(再生計画の取消し)
可処分所得とは、債務者の収入から最低生活費(税金や最低限度の生活の維持に必要な費用)を差し引いた金額で、その2年分が「可処分所得基準」です。
最低生活費は、居住地域の自治体の生活保護基準を元に定められており、年齢や収入、家族構成などに応じて決まります。
例えば、借金総額が800万円で、1年間の可処分所得が120万円、預貯金150万円がある場合を考えてみましょう。
最低弁済基準額は160万円(借金総額の5分の1)、清算価値は150万円、可処分所得基準は240万円(120万円×2)となり、もっとも高額の可処分所得基準が適用されるのです。
可処分所得基準が最低弁済額の基準となるケース
【借金総額】 800万円
【清算価値】 150万円(預貯金のみ)
【1年間の可処分所得】 120万円
→可処分所得基準は240万円となる。
【最低弁済基準額】 160万円
→可処分所得基準:240万円>最低弁済基準額:160万円>清算価値:150万円となるため、債務者は少なくとも240万円を返済する必要がある。
可処分所得基準は、最低弁済額や清算価値より高くなることが多く、給与所得者等再生の手続きでは小規模個人再生よりも最低弁済額が高額になるケースもよく見られます。
最低弁済額は個人再生後にどれくらいの期間で支払えばいいの?
個人再生後は、再生計画に従って最低弁済額を分割返済していくことになります。
返済期間は原則的に再生計画認可決定確定日から3年間です。
支払いは毎月1回が基本ですが、3ヶ月に1回以上のペースであればよいとされています。
ただし、下記のようなやむをえない事情がある場合は、返済期間を最長5年まで延長することが可能です。
特別な事情の例
- 返済期間中に出産や育児、子ども進学といった予定があり、大きな支出が見込まれる
- 家族の医療費など、やむを得ない支出があり、3年間で全額を返済することが困難である
個人再生後に最低弁済額を支払えなくなった場合はどうすればいい?
個人再生の弁済開始後、何らかの事情で支払いが困難になった場合、以下のような対処法があります。
個人再生後に支払い困難になった場合の対処法
- 支払期限の延長
- ハードシップ免責
- 自己破産
1 支払期限の延長
裁判所に「個人再生計画の変更」を申し立て、返済期間を延長する方法です。
「再生計画変更申立書」の内容が裁判所に認められれば最大で2年まで延長が可能となります。
最低弁済額は当初のままですが、期間の延長によって月々の返済額を減らすことができます。
ただし、延長が認められるのは、収入低下や本人・家族の長期入院といったやむを得ない事由で再生計画の遂行が著しく困難になった場合のみです。
買い物やギャンブルによる浪費が理由では、計画の変更は認められません。
2 ハードシップ免責
裁判所に「ハードシップ免責」を申し立て、残っている最低弁済額の返済を免除してもらう方法です。
申し立てるには、下記の条件をすべて満たす必要があります。
債務者本人には責任のない事態によって返済が困難になった
・リストラに遭う
・事故や病気で入院する
・個人事業主が天災などによって設備を失うなど、返済できない理由が本人の責任で生じたものではない必要があります。
最低弁済額の3/4以上を返済している
再生計画で決めた最低弁済額のうち、4分の3以上の返済がすでに終わっている必要があります。
ハードシップ免責が債権者の一般の利益に反しない
ハードシップ免責をすることで債権者が損をすることがあってはならないということです。
具体的には、自己破産の手続きをしたと仮定した場合の清算価値より多い金額を、すでに支払っていることが条件となります。
再生計画の遂行や変更が極めて困難である
・長期間にわたり収入がない
・再就職が決まらない
などの理由で、再生計画が遂行できない状態であることです。また、弁済期間の延長などを行っても完済の見込みがないことも必要となります。
ハードシップ免責が認められると債務が免除される一方、大きなデメリットもあります。
個人再生は住宅ローンを組んでいる自宅を手元に残すことのできる手続きですが、ハードシップ免責では住宅ローン残高も免除となるため自宅を手放さなくてはなりません。
また、免責後7年間は自己破産および個人再生(給与所得者等再生)ができなくなります。
ハードシップ免責を考えている方は、こうしたマイナス面も加味しておきましょう。
3 自己破産
自己破産は、再生計画の変更で返済期間を延長しても最低弁済額の支払いが困難で、ハードシップ免責の条件も満たしていない場合の最終手段です。
自己破産をすると残りの借金は免責となりますが、住宅ローン返済中のマイホームを始め、一定額以上の価値がある財産を手放すことになります。
また、職業制限により手続き中は一定の職業に就けません。
個人再生の手続き自体にも費用がかかることを忘れずに
個人再生の申し立てをするには裁判所に費用を払わなければなりません。
弁護士や認定司法書士への報酬も必要となるため、合計金額は70万円以上が目安となります。
それでは詳しく内訳を見ていきましょう。
裁判所に支払う費用
裁判所に個人再生を申し立てるにはさまざまな費用がかかるほか、個人再生委員が選任された場合はその報酬も必要となります。
裁判所に支払う費用 | |
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手数料(収入印紙) | 1万円 |
予納郵券(切手) | 2000円程度 ※裁判所や債権者数によって異なる |
官報公告費 | 1万3000円程度 ※裁判所によって異なる |
個人再生委員の報酬 | 15万~25万円程度 ※裁判所や代理人弁護士の有無により異なる |
個人再生委員とは、申立人(債務者)との面談や、財産・収入の調査、再生計画案の確認などを行う人です。
裁判所が管轄する地域の弁護士が個人再生委員を担当することが多く、選任された場合は申立人が15万〜25万円程度の報酬を支払います。
個人再生委員の報酬は、弁護士が代理人になっている場合は15万円程度に減額されることが一般的です。
個人再生委員が選任されるかどうかは申立ての内容や裁判所によりますが、代理人の弁護士がいる場合は選任されないことが多いようです。
一方、本人が手続きを行う場合は選任となるケースが多く、認定司法書士に依頼した場合は裁判所の判断次第となります。
ちなみに、東京裁判所では代理人弁護士がついた場合も必ず選任されることが決まっています。
弁護士や認定司法書士に支払う費用
個人再生の手続きを専門家に依頼する際、弁護士と認定司法書士のどちらに頼むか、また、住宅ローン特則を利用するかどうかによって費用が異なります。
弁護士・認定司法書士の費用 | ||
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住宅ローン特則不使用 | 住宅ローン特則使用 | |
弁護士 | 30~50万円程度 | 35~60万円程度 |
認定司法書士 | 20~30万円程度 | 25~40万円程度 |
弁護士は債務者の代理人としてひと通りの手続きを、認定司法書士は書類作成代理人として、必要な書類を揃える業務を行います。
弁護士の方が対応する業務の範囲が広い分、報酬も10万~20万円ほど高額になるのが一般的です。
また、個人再生では住宅ローン特則(住宅資金特別条項)を使うことでローン返済中の持ち家を手元に残すことができます。
ただし、住宅ローン特則を使う場合は、弁護士や認定司法書士への報酬も5万~10万円ほど上乗せになります。
個人再生は借金に苦しむ人のための救済制度です。
金銭的な余裕がなく、高額の費用が工面できないという方も多いでしょう。
しかし、近年は分割払いや後払いに対応している法律事務所も少なくありません。
また、条件を満たせば「法テラス」の立て替え制度を利用することも可能です。
個人再生の費用については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
「個人再生にかかる費用はどれくらい?払えない場合の対処法も解説!」
最低弁済額をできるだけ低くしたいなら弁護士や司法書士に相談を
個人再生における最低弁済額を自力で正確に計算することは難しく、かかる時間と労力は膨大です。
弁護士や認定司法書士に依頼すると高額な費用はかかりますが、以下のメリットが受けられます。
- 正しい借金額を確認し、法的な基準に沿って清算価値や可処分所得を算出することで、より正確な最低弁済額を把握できる。
- 最低弁済額をできるだけ低く抑えるためのアドバイスをしてもらえる。
- 必要書類の作成や、裁判所・債権者とのやり取りなども代行またはサポートしてもらえる。
実際に個人再生をした人の約98%が、弁護士や認定司法書士に依頼しています。
「専門家に依頼するのはハードルが高い」と感じられるかもしれませんが、最近は報酬の後払いや分割払いが可能で、無料相談に応じてくれるところも数多くあります。
費用面で不安を抱えている方は、まず無料相談を検討してみてはいかがでしょうか?