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ペアローンを組んでいる人は個人再生によって住宅を手放すことになる
住宅ローンを支払っている人が債務整理を行う場合、個人再生は、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)により家を残せるため、メリットの大きな方法となります。
しかし、住宅ローンをペアローンで組んでいる人は、原則、住宅ローン特則を利用できません。
このため、個人再生をすると、ほかの債務(借金)と同じように減算されることになり、ローンの残債を支払えなくなることから、抵当権を行使されて、住宅を手放すことになってしまうのです。
住宅ローンのペアローンとはなにか
ペアローンとは、夫婦・親子などがそれぞれ住宅ローンを組み、共同して住宅を購入する方法のことです。
例えば、3000万円の家を住宅ローンで購入するとします。
しかし、夫1人では審査で2000万円までしか借りられなかった場合、妻も1000万円の住宅ローンを組むことで、合計3000万円の住宅ローンを組むのです。

夫婦共同で家を購入する場合や、二世帯住宅を親子共同で購入する場合などに、ペアローンは利用されます。
ペアローンの場合、住宅の所有権は共有となり、それぞれの持ち分に応じて住宅ローンを組むことになります。
気をつけないといけないのは、それぞれの住宅ローンを担保するための抵当権は、それぞれの家の持分ではなく、家全体となることです。
ペアローンを組んでいるとなぜ個人再生の住宅ローン特則が使えないのか
個人再生で住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用するには、以下の2つの条件を満たさなければなりません。
- 「住宅資金貸付債権」であること(民事再生法第198条第1項)
- 「住宅資金貸付債権」ではない債権を担保するための抵当権が設定されていないこと(民事再生法第196条3号)
「住宅資金貸付債権」とは、住宅の購入や建設に関わる費用の債権であり、抵当権が設定されているもののこと。
簡単にいえば、住宅ローンのことです。
ペアローンも住宅ローンには違いないので「住宅資金貸付債権」となり、1つ目の条件は満たすことができます。
問題は2つ目の条件です。
例えば、夫は個人再生をしようとする場合、夫から見れば、住宅ローンの担保である家に、別のローン(妻の住宅ローン)の担保が設定されていることになっています。

したがって、2の条件を満たせないため、住宅ローン特則を利用できないのです。
ペアローンでも個人再生で住宅ローン特則を利用するためには?
前述の通り、ペアローンを組んでいる場合は、原則として住宅ローン特則を利用することはできません。
しかし、条件はありますが、ペアローンであっても住宅ローン特則を利用できる場合があります。
ペアローンを組んでいる両名が同時に個人再生を行う
ペアローンを組んでいる夫婦の2人ともが個人再生を申立てた場合、抵当権が実行されず、住宅ローン特則を利用できる場合があります。
そもそも、民事再生法第198条第1項但し書きで、「住宅資金貸付債権ではない債権を担保するための抵当権が設定されていないこと」を条件にしている理由は、住宅資金以外の債務で抵当権が実行されると、住宅資金特別条項が無意味になるからです。
2人ともが住宅ローン特則を利用すれば、住宅ローンの支払いが継続されるため「抵当権が実行されるおそれがない」と判断されて、住宅ローン特則が認められる場合があるのです。
例えば、東京地方裁判所では、ペアローンであっても、夫婦双方での個人再生の申立てがある場合、住宅資金特別条項の利用を認める運用がなされています。
ただし、こうした運用は、管轄の裁判所によって認めるか否かは変わってきます。
個人では判断が難しいため、法律の専門家である弁護士や司法書士に相談した方が確実でしょう。
一方だけが個人再生をして住宅を残せる場合がある
ペアローンを組んでいる一方だけが個人再生を行っても、住宅ローン特則を利用できる場合もあります。
前述の通り、ほかのローンの抵当権が設定されていると住宅ローン特則が利用できないのは、住宅ローン以外の抵当権が実行されて家を失うことになると、住宅ローン特則を認めた意味がなくなるからです。
逆をいえば抵当権を実行する必要がないと金融機関が判断し、裁判所が認めれば、一方だけの個人再生でも、住宅ローン特則を認める余地があります。
つまり、夫が個人再生をしても、妻の住宅ローンの支払いに不安要素がないと金融機関が判断して、裁判所が認めれば、夫の側だけが個人再生をしても住宅ローン特則が利用できる場合があるのです。
ただし、あくまで例外的なケースです。
金融機関に認めてもらうことが前提となりますし、その交渉は個人では難しいでしょう。
まずは、弁護士や司法書士に相談して、交渉が可能かどうかを判断してもらいましょう。
依頼すれば、金融機関との交渉も弁護士や認定司法書士が代理してくれます。
個人再生ではなく任意整理を検討
例外はありますが、ペアローンでは住宅ローン特則を利用することはやはり難しいといえます。
そのため、住宅を残して借金問題を解決するのであれば、個人再生ではなく、任意整理を検討した方がよいでしょう。
任意整理とは、債権者と直接交渉して、将来利息や遅延損害金をカットしてもらい、借金の元本を3~5年で返済していくものです。
この方法では、借金の元本が減るわけではないので、自己破産や個人再生と比べて解決できる借金問題は限定的です。
しかし、住宅ローン以外の借金を任意整理することで、借金の返済ができるようになるのであれば、選択肢になるでしょう。
任意整理についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
「任意整理とは | メリット・デメリットを比較してベストな解決方法を知る」
ペアローンでも相互保証型の場合は手続きがより複雑になる
ペアローンの中には、相互保証型といって、お互いがお互いの連帯保証人として契約する場合があります。
相互保証型のペアローンでは、通常のペアローンよりも、住宅ローン特則が認められるのかどうかの判断がさらに難しくなります。
相互保証型では住宅ローンの債務だけではなく連帯保証債務も抱えている
連帯保証人には、連帯保証債務という「主たる債務者が借入れの返済を行わないときに、債務者に代わりに返済する責任を負う債務」があります。
住宅ローンの返済が正常に行われている間は、返済する必要はありませんが、法律上は、債務(借金)があると見なされます。

つまり、相互保証型のペアローンの場合、夫婦それぞれが自分の住宅ローンだけではなく、お互いがお互いの住宅ローンを担保するための連帯保証債務も抱えているのです。
連帯保証債務は、住宅の建設・購入の必要な資金の貸付ではないので、住宅資金貸付債権とはいえないのが原則。
仮に、夫が個人再生を申立てて住宅ローン特則を利用が認められると、妻の住宅ローンを担保している夫の連帯保証債務が再生計画の認可によって減額されてしまいます。
住宅ローンは貸付を行う際、担保の毀損(きそん)があれば、期限の利益の損失(ローンの残債の一括請求)ができるという特約を結ぶことが多いです。
連帯保証債務の減額は担保の毀損といえます。
つまり、個人再生により夫の連帯保証債務が毀損されたことになり、妻の住宅ローンの残債が一括請求されてしまうのです。
妻が一括で返済することは難しいでしょう。
結果的に抵当権が実行されて、家を手放すことになってしまうのです。
相互保証型ペアローンで住宅を残す方法はないのか?
ペアローンを組んでいる場合であっても、夫婦ともに個人再生をした場合は、住宅ローン特則を利用できる場合があるのは前述した通りです。
実は、相互保証型のペアローンの場合でも、夫婦ともに個人再生を申立てた場合は、住宅ローン特則を利用できる場合があります。
ポイントとなるのは、連帯保証債務がどのように扱われるかです。
ペアローンではない住宅ローンの場合、主たる債務者(住宅ローンを借りてる人)と、その連帯保証人がそろって個人再生を申立てた場合は、連帯保証債務も、住宅資金貸付債権として扱い、住宅ローン特則が認められることがあります。
相互保証型のペアローンでも同様に、夫婦ともに個人再生をすることで、それぞれの連帯保証債務についても、住宅資金貸付債権として扱われるので、住宅ローン特則が認められるのです。
このように、相互保証型のペアローンでは、住宅ローン特則が利用できるかどうかは、さらに手続きが複雑になります。
迷った場合は弁護士や司法書士に依頼した方がよいでしょう。
ペアローン以外の住宅ローンは個人再生で家を残せるのか?
住宅ローンを夫婦や親子などと協力して組む方法はペアローン以外にも「連帯債務型(リレーローン)」「連帯保証人型」があります。
それぞれにはどのような違いがあるのでしょうか。
ペアローン |
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連帯債務型(リレーローン) |
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連帯保証人型ローン |
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どの方法で住宅ローンを組んだのか忘れた人は、自宅の登記簿を持参して弁護士や司法書士に相談すると内容を確認してくれます。
連帯債務型の住宅ローンでは住宅ローン特則を利用することができる
連帯債務型の住宅ローンとは、夫婦などが連帯債務者となって住宅ローンを借り入れ、その担保として夫婦が共有する住宅全体に抵当権を設定する方法です。
連帯債務とは、複数の債務者が同一内容の債務をそれぞれ独立に負担し、そのうちの1人が弁済すれば、ほかの債務者も債務を免れる関係です。
つまり、ローンは1本ですが債務者は2人以上となる、ということです。
なお、連帯保証型の中でも、親と子が連帯債務者となり、親子二世代にわたって返済していくように契約するものを「リレーローン」といいます。
連帯債務型の住宅ローンでは、債務者は複数でも、家の抵当権は1つのローンしか設定されていないことになるので、住宅債権特別条項の要件を満たすことができます。
債務者は複数でも、ローンが1本である点が、ペアローンとは異なります。
連帯保証人型の住宅ローンでは住宅ローン特則が利用できる
「連帯保証人型」とは、たとえば夫が金融機関から住宅ローンを借り入れ、妻が連帯保証人となって契約するものです。
この時、夫が個人再生をした場合は、その債務を担保するための抵当権は住宅資金貸付債権以外の債権を担保していないため、要件を満たすことができ、住宅ローン特則を利用できます。
この時、連帯保証人である妻への影響はありません。
民事再生法第百七十七条
再生計画は、再生債務者、すべての再生債権者及び再生のために債務を負担し、又は担保を提供する者のために、かつ、それらの者に対して効力を有する。
2 再生計画は、別除権者が有する第五十三条第一項に規定する担保権、再生債権者が再生債務者の保証人その他再生債務者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び再生債務者以外の者が再生債権者のために提供した担保に影響を及ぼさない。
ただし、夫が再生計画にしたがって弁済できなかった場合、民事再生法203条の規定に従って、民事再生法177条2項の規定が適用されなくなりますので、妻は連帯保証人として夫の住宅ローンを返済しなくてはなりません。
夫が再生計画にしたがって弁済を継続していれば、連帯保証人である妻への影響はありません。
ペアローンでも家を残して個人再生するなら弁護士や司法書士に相談!
個人再生の手続きは難しい上に、住宅ローン特則付きの場合には事前に住宅ローン債権者との交渉が必要になってきます。
それがペアローンになると、住宅ローン会社への説得や抵当権、担保権が実行されない証明が必要になり、さらに難しくなります。
弁護士や認定司法書士に依頼することで、こうした複雑な手続きを代理で行ってくれます。
実際、個人再生では98%の方が弁護士や司法書士に依頼しています。
個人再生を利用すべきか判断が難しい場合なども、自身の状況合わせた借金解決方法を提案してくれます。