自己破産の同時廃止、管財事件、少額管財を比較
自己破産の手続きには、同時廃止・管財事件・少額管財の3つの手続があります。
- 同時廃止
債務者(借金をしている人)の財産が少ししかないので、債権者に分配する原資(お金や換金できる財産のこと)がない場合の破産手続き。
申し立てとともに、「破産廃止」といって破産手続きが終わる。
・財産額が20万円未満
【総費用(内訳)】
・約30万円
・裁判所への費用(予納金・官報公告費など)1万円~5万円
・弁護士・司法書士費用 23~28万円
【期間】
・準備は最低1~2カ月、長い場合で約半年
・申し立てから免責まで3~4カ月程度が目安
【依頼先】
・弁護士・司法書士どちらにも依頼可能
- 管財事件
債務者の財産が、ある程度は債権者に分配できるときの手続き。
裁判所から選ばれた管財人が、破産手続きの公平性を守りながら、債務者の財産を換金して債権者に分配する。
次のいずれかに該当するもの
・財産額が20万円以上
・法人の代表者や個人事業主
・債務額が5000万円程度をこえる
・免責不許可事由があるか調査の必要性がある
【総費用(内訳)】
・約70万円~
・裁判所への費用(予納金・官報公告費など)50万円~
・弁護士・司法書士費用 20万円~
【期間】
・準備は最低1~2カ月、長い場合で約半年
・財産・債務の額や、借り入れの経緯の複雑性・事業内容に応じて長期になる可能性もある
【依頼先】
・弁護士・司法書士どちらにも依頼可能
- 少額管財
管財事件で行われる裁判所の手続を申立人(借金をした人)の弁護士に行ってもらい、裁判所に納める予納金を低く抑える破産手続き。
予納金が高いことがネックになって破産手続きが使えない債務者を救済する目的がある。
・代理人弁護士に依頼していること
本来、管財事件であるものについて、弁護士の調査を条件に少額管財手続にすることが可能
【総費用(内訳)】
・約50万円
・裁判所への費用(予納金・官報公告費など)22万円
・弁護士費用 28万円
【期間】
・準備は最低1~2カ月、長い場合で約半年
・申し立てから免責まで約4カ月が目安
【依頼先】
・弁護士に依頼することが条件なので、司法書士には依頼不可
同時廃止事件は、債務者の財産が20万円に満たない場合に認められますが、この20万円は、少額管財事件における予納金の額です。
費用がないと、財産を分配することができないので、同時廃止事件適用の基準となります。
少額管財は、債務者が弁護士に依頼することが前提条件になります。
3つのどの手続きをとっても、ギャンブルによる浪費や、財産の隠ぺいなどの免責不許可事由(免責を許可できない事情)がなければ、裁判所は最終的に免責を許可します。
免責は、債務に関する一切の責任から免れることを意味しますので、免責を許可された債務者は、借金を返す必要がなくなります。
同時廃止、管財事件、少額管財について詳しく解説
「とはいっても、同時廃止ってどんな手続きをするの?」
という疑問はあると思います。
そこで、同時廃止の流れを、管財事件、少額管財事件の手続きとも比べてご説明します。
同時廃止の特徴
破産事件の中で同時廃止が占める割合は約6割で、非事業者・非会社経営者だけを見ると7~8割となります。(平成30年度司法統計)
それくらいよく行われる手続きと言えるでしょう。
同時廃止でかかる費用は、弁護士・司法書士の報酬と、裁判所へ支払う予納金です。
予納金は東京地裁の場合手数料1500円、官報公告費1万584円、郵券4100円。各費用は裁判所によって異なりますが、おおむね5万円以内で収まります。
かかる期間は、書類の準備期間と手続きそのものの期間で、合わせて半年以内が目安となります。
同時廃止の手続の流れ
手続きの流れは次の通りです。
①弁護士・司法書士の受任
②受任通知の債権者への送付・取引履歴の開示請求
取り立てがここで止まる
③債権調査・過払金返還請求
過払い金があれば、破産手続きを開始する前に行う
④資産・家計状況の調査
⑤免責に関する調査
⑥手続きの選択
③~⑤の結果、自己破産を選ぶのかどうか最終確認する
⑦申立書の作成
⑧申立て
司法書士の受任では本人申立て、弁護士の場合は弁護士が申し立てる
⑨債務者の審尋
審尋とは、裁判所が事情を聴くこと
⑩破産手続開始決定・同時廃止決定
同時廃止ができるかどうかは裁判所が決定する
同時廃止でも手元に残せる財産がある
破産手続は、基本的に債権者にすべて財産を分配する手続きですが、何も生活費がないのは破産申立てをする人も困ってしまいます。
そこで、手もとにどれくらいの現金を持っていてよいのかの基準が必要になります。
法律では債務者がある程度の現金を持っていて良いことになっていて、99万円までの現金は「自由財産」として認められ、生活費(99万円を3カ月分と考えている)として使うことができます。
しかし、持てる財産は裁判所により異なります。
東京地方裁判所の場合、手元の現金が33万円未満の場合を同時廃止事件として扱い、それ以上の額の現金がある場合は少額管財事件としています。
処分の対象になり得る財産とは?
債権者に金銭として分配できるものを、債務者の「財産」と言います。
債務者は、20万円以上の財産はすべて手放して債権者への分配に充てなければなりません。
【処分対象の「財産」の例】
現金、預貯金、土地、家屋、株や社債などの有価証券
【処分対象にならない財産(自由財産)の例】
破産手続が開始された後に得た給与などの財産、99万円までの現金(銀行などの預貯金は含まない)、生活に不可欠な服など法律で差し押さえが禁止されているもの
管財事件の特徴
管財事件とは、裁判所で選任された管財人の監督の元、債権者に財産を分配する手続きを行う破産事件のことです。
破産事件は債権者への公平な財産の分配を目的としているので、管財事件が原則的な形態と言えます。
管財事件の手続きの流れ
管財事件の手続きの流れは、同時廃止の手続きに加えて、管財人が入って次のように行われます。
①~⑩までは同時廃止の流れと同じ
⑪管財人の選任
⑫予納金の納付
⑬管財事務の遂行
⑭債権者集会の開催・免責審尋
⑮免責許可・不許可決定
⑯債権者への配当・任務終了報告集会
管財事件の予納金は50万円以上かかります。
予納金は裁判所に手続き費用として納めますが、これは管財人の報酬となります。
債務者の財産を金銭換算して多額になる場合は管財人の仕事の手間や時間が増えるので、その分報酬額となる予納金は増えます。
少額管財事件の特徴
少額管財事件とは、予納金の少ない管財事件です。
通常の管財事件を簡略化して進められるので、期間は管財事件よりも短いです。
破産手続きを進める際に、通常であれば管財人が行う業務を、申立人の代理人弁護士に行わせるのが少額管財事件です。
ですから、少額管財は弁護士に依頼することが必須条件となります。
また、少額管財事件はすべての裁判所で行っているわけではありません。
同時廃止・管財事件・少額管財は自分では選べない
なお、同時廃止・管財事件・少額管財は、自分で手続きを決めることはできません。
申立ての書類に記載された債務者の財産・借金の額をもとに、裁判所が事件・手続の振り分けを行った上で、最終的にどの手続きにするかを裁判所が判断して、手続開始が決まるのです。
自己破産手続きを弁護士・司法書士に依頼するメリット
同時廃止が、費用や手続きの期間といった負担を抑えながら、借金問題を解決できる手続きだとご理解いただけたと思います。
一方で、
「なんとか同時廃止をしたいけど、弁護士に頼む方がいいの?」
「弁護士に頼むのと自分でやるの、何か違いがあるの?」
とお考えの方もいることでしょう。
手続費用の負担が心配なあまりに、弁護士・司法書士費用をかけたくないと思う方がいるかもしれませんが、同時廃止をお考えであれば、弁護士・司法書士に相談することをおすすめします。
その理由は次の3つです。
- 準備や手続きの負担を減らせる
- 家族や会社に知られないように配慮してくれる
- 手続きを債務者に有利に進めやすくなる
自己破産の手続には多くの書類が必要です。
書類の入手方法も簡単なものばかりではありません。
自分一人で手続きを進めるとなると、その労力や時間は計り知れません。
専門家のリードで進めるほうが格段に効率的で、行動の無駄も省けます。
自己破産の手続きの必要書類について関心のある方は「自己破産の必要書類を一覧で確認!注意点やバレない入手方法も解説」でご確認ください!
弁護士・司法書士が窓口となって裁判所や債権者に対応するので、家族や会社に極力知られないように配慮できます。
自分だけで進めるとなると、家族や会社に知られないようにするのは手間がかかり神経も使います。
窓口が弁護士であれば、弁護士は書類の送り方にも配慮するので、極力知られないように対処できます。
同時廃止は、自分一人で申し立てるよりも、弁護士が間に入った方が認められやすくなります。
弁護士が入って調査すると、調査内容の信頼性が高まり裁判官の心証が良くなるからです。
また、少額管財は弁護士に依頼しないと認められません。
約50万円の裁判所への費用を20万円に減らせるとしたら、その差額は大きいです。